最近では、「お墓が遠くにあるのでお参りやお手入れが難しい」「お墓を継ぐ人がいなくなってしまった」などの理由から、お墓の引っ越しを考える人が増えています。
しかし、実際にお墓の引っ越しを経験したことがある人は少ないかもしれません。お墓の移転は「改葬」といわれ、行政の許可が必要で、きちんとした手続きが求められます。
この記事では、移転の手順や必要な書類、手続きの方法、費用相場などを解説しています。お墓の引っ越しを検討されている人は、参考にしてください。
改葬(お墓の引越し)の一般的な流れや方法とは?
お墓の引っ越しである改葬には、行政での手続きや新しいお墓の準備、遺骨を移す際の儀式など、さまざまな手順が必要になります。一般的な改葬の方法や流れについて解説します。
「埋葬証明書」「受入証明書」「改葬許可証」の発行
改葬には、発行元や手続きが異なる以下の3つの書類が必要になります。
書類の種類 | 発行元 | 書類の内容・申請時の必要書類 |
---|---|---|
埋葬証明書(埋蔵証明書) | 現在の墓地の管理者 | 現在の墓地に遺骨が埋葬されていることを証明する書類。 |
受入証明書 | 引っ越し先の墓地の管理者 | 引っ越し先の霊園での遺骨の受け入れを証明する書類。 |
改葬許可証 | 引っ越し先の墓地がある地方自治体 | お墓の移転を行政が許可する書類。発行するには申請書とともに「埋葬証明書」「受入証明書」を自治体に提出する必要があります。自治体によって手続きや申請書の名称が違っている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。 |
これら3つの書類はお墓を撤去する「墓じまい」とも共通していて、以下の記事では、申請方法などを詳しく解説しているので、そちらも参考にしてください。
魂抜きの儀式
現在のお墓から遺骨を取り出すには、「魂抜き」の儀式を行う必要があります。魂抜きは「閉眼供養」や「お性根抜き」とも呼ばれ、お墓に宿っている故人の魂を抜くための儀式です。
仏教では、お墓には故人の魂が宿るとされ、そのまま移転させるのはタブーになっています。宗派によって異なりますが、お墓を掃除したり清めたりした後、僧侶を呼んで墓前で読経を行ってもらうのが一般的です。儀式により魂を抜かれたお墓はただの石になります。
寺院墓地なら日ごろからお世話になっているお寺にお願いすればよいですし、それ以外なら、同じ宗派の寺院に依頼したり、僧侶派遣サービスを利用したりもできます。魂抜きの儀式は移転当日に行う必要はなく、一週間ほど前から前日までに済ませると、引っ越し当日がスムーズです。
納骨室から遺骨を取り出す
閉眼供養が済むと、お墓の納骨室(カロート)から遺骨を取り出します。納骨室には扉があって開閉できるようになっているのですが、自分で扉を開けて遺骨を取り出せるタイプと、重い墓石で蓋をされており自分だけでは開けられないタイプの2種類があります。
後者の場合は、石材店にお願いして遺骨を取り出してもらいましょう。無理に重い墓石を1人で動かそうとすると、けがをしたり墓石を傷つけたりして危険です。1人で開けられるタイプでも、なるべく複数人で作業するほうがよく、不安であれば、なるべく石材業者に依頼してください。
取り出した遺骨は、新しいお墓に入れるまで自宅に安置するか、納骨堂に預けて大切に保管しておきます。
新しいお墓を建てる
お墓から遺骨を取り出すなどの手続きをしている間に、並行して新しいお墓を建てる手続きも進めていきましょう。お墓を建てるのには通常契約後1~3カ月かかるため、早めに手続きにとりかかる必要があります。
ただ、改葬先が新規墓石の場合で、打合せから完成まで半年から1年ほどかかるケースもあるため、あまり早く遺骨を取り出すよりは先にお墓を建ててから手続きを進めたほうが慌てずに済むでしょう。
新しく墓石を購入するのか、今の墓石を再利用して費用を抑えるのか、どれくらい時間がかかりそうかなど、あらかじめ石材業者に相談しておきましょう。また、元々あるお墓に遺骨を移す場合は、新しいお墓の準備は必要ありません。
魂入れの儀式
新しいお墓に遺骨を入れる際には、「魂入れ」の儀式が必要になります。魂入れは「開眼供養」や「お性根入れ」「入仏式」などとも呼ばれ、遺骨を取り出すときとは逆に、お墓に故人の魂を宿すための儀式です。
魂を入れることで、普通の石だった墓石が信仰の対象になります。魂入れの方法も基本的には魂抜きと同じで、お墓の周囲を掃除して清め、僧侶を呼び、墓前で読経してもらいます。魂入れを行う際は、墓地の管理者や石材店に事前に日時を伝えておきましょう。
移転先が寺院墓地なら菩提寺にお願いすればよいですし、それ以外の場合は、以前のお墓でお世話になっていたお寺や同じ宗派の寺院などに依頼できます。
新しいお墓に遺骨を移す
自宅や納骨堂で保管していた遺骨を新しいお墓の納骨室に移します。遺骨を取り出す場合と同様に、新しいお墓でも納骨室は1人で開けられるものと複数人での作業が必要なものがあります。
1人で納骨できない場合は、ここでも石材業者を呼ばなくてはいけません。納骨は開眼供養の後にそのまま行われる場合が多く、石材業者も呼んでおいて魂入れの儀式に立ち会ってもらうと作業がスムーズに進みます。
改葬先への納骨が済むと遺骨自体の引っ越しは完了ですが、最後に、これまでのお墓を解体撤去し墓地を更地にして返す作業が残っています。
古いお墓を解体し更地にする
使わなくなったお墓は墓石を解体・撤去し、更地に戻して墓地の使用権を返還します。一連の流れは墓じまいと呼ばれ、移転だけでなく、承継者がいなくなったお墓などに対しても行われます。
お墓の撤去工事は石材業者に依頼してください。できれば、墓地から近く、施工実績の多い業者を選ぶようにしましょう。墓地によっては指定の業者があるため、業者の紹介を受けた場合はそちらに依頼するようにしてください。
当日は立ち合ってもいいですが、日程の都合がつかない場合や墓地が遠方にある場合は、立ち合いなしでも作業してもらえます。
改葬(お墓の引越し)に伴う各種費用や相場について
お墓の引っ越しにはさまざまな手順を踏む必要があるため、費用面を気にする人も多いと思います。実際のところ、改葬にはどれくらい費用がかかるのでしょうか。
書籍で行われた墓じまい・改葬費用に関するアンケート(「お墓の建て方・祀り方、墓じまいまで」主婦の友社 2021年)によると、100万円以上200万円未満(27.2%)の割合が一番多くなっています。
また、お墓や仏壇に関するポータルサイトを運営している企業が行ったアンケートでは、50万円未満の割合が40.8%で、50万円以上の31.6%を上回っています。
(参考:鎌倉新書『改葬・墓じまいに関する実態調査(2020年)』)
以上をみると、アンケートによる差はあるものの、改葬費用の相場は安ければ50万円以内、高ければ200万円程度までと考えるとよいでしょう。
埋葬証明書・受入証明書・改葬許可証の発行
続いて、各手順や必要な手続きにかかる費用をみていきましょう。はじめに、自治体や墓地の管理者に発行してもらう3種類の書類にかかる費用を解説します。
それぞれの書類には発行時に手数料がかかる場合があります。
改葬許可証
1通1,000円程度。市区町村の役所で発行してもらいます。手数料は自治体によって異なり、無料のところもあります。
埋葬証明書
1通あたり300~1,500円程度が相場。
受入証明書
1通あたり無料~1,500円程度。受け入れ先の場合は、無料で発行してもらえるところも多いようです。
お墓の撤去・移転作業
お墓を撤去・移転するために業者に工事を依頼する費用や使用していた墓地の区画整備代などです。
お墓の撤去・移転は石材業者に依頼するのが一般的で、費用は1㎡あたり10~20万円程度が相場です。狭くて重機を入れられないなど作業が難しい場所では、費用が高くなる可能性があるため、事前に見積もりを出してもらうようにしましょう。
区画整備にかかる費用は、1㎡あたり5~20万円程度が相場です。墓石だけでなく外柵など付属物があると、こちらも費用が高くなるため、石材店に確認しておいてください。
納骨室から遺骨を取り出す
お墓から遺骨を取り出す際には、石材業者やお寺への費用が必要になります。
石材店への費用
石材業者に遺骨の取り出しを依頼する費用。遺骨1人分につき3万円前後が相場です。
閉眼供養のお布施代
魂抜きの儀式を行うためのお布施代。1~3万円が相場です。
離檀料
これまでのお墓が寺院墓地の場合、檀家をやめるには離檀料を払うのが一般的です。離檀料には決まった金額があるわけではなく、できる範囲で気持ちとして包みます。お寺によって金額が決められている場合は、それに従ってください。
新しいお墓を建てる
改葬先に新しいお墓を建てるためには、墓石代や永代使用料、工事費用などの費用が必要になります。
新しい墓石代
新しいお墓を購入する費用。墓石の種類によって変わりますが、100~200万円が相場です。
永代使用料
お墓のある墓地の区画を使用する権利を得るための費用。墓地や地域によって差があるものの、全国平均では約68万円が相場です。
工事費用
建墓の基礎工事や墓石の据付工事にかかる費用。墓石や区画の大きさなどによりますが、全て合わせて10~30万円程度が相場です。
事務手数料
改葬先の墓地管理者に支払う事務手続きの費用。数千円程度が相場です。
新しいお墓に遺骨を移す
改葬先のお墓に新しく遺骨を入れる際には、以下の費用がかかります。
埋葬費用
お墓に納骨するため石材店に依頼する費用。遺骨1人分で3万円が相場です。
開眼供養のお布施代
お墓に魂を入れる開眼供養を行ってもらうときにお寺に渡すお布施代。金額は1~3万円が相場です。
入檀料
新しくお寺の檀家になる費用で、改葬先が寺院墓地の場合に必要です。お布施として渡すもので、10~30万円程度が相場とされています。金額に決まりはないため、わからなければ住職に相談しましょう。
古いお墓を解体し更地にする
遺骨の改葬が済んだ後、石材業者に依頼して、これまで使っていたお墓を解体し、区画を更地に戻すための費用です。墓石の撤去や区画を更地にするための費用は、お墓の大きさなどにもよりますが、20万円程度が相場です。
山奥にあるお墓や狭い場所にあるお墓など、工事がやりにくい場合や石碑など撤去するものが多い場合は工事費用が高額になるケースがあるため、事前に見積もりをとり、できれば複数の業者を比較して依頼先を決めてください。
改葬(お墓の引越し)時の注意点
ここまで、お墓の引っ越しを行う際の手順やそれぞれの作業、手続きにかかる費用の相場に関して説明してきましたが、改葬にあたってはほかの注意点も考慮しなければなりません。
引っ越し先の墓地に関する注意事項や改葬を行うタイミングはいつがいいのか、墓石自体の移動は可能なのかなど、お墓の引っ越しに関する注意点、疑問点について解説します。
引越し先により契約内容や宗派等の条件が異なる
お墓が引っ越す墓地の種類によって、契約方法や改葬できる宗派などの条件が異なる場合があるため注意しましょう。
寺院墓地
引っ越しの際、お寺との檀家契約が必要になる可能性があります。檀家になるには、契約書への記入やお布施として入檀料の支払いが必要です。
公営霊園
地方自治体が運営する公営墓地は使用料や管理料が安いメリットがあるものの、入れるかどうかを抽選で決めるところも多くなっています。人気が高い地域では倍率も高く、抽選に外れてしまうと応募しても墓地に入れない場合もあります。
民営霊園
宗派に条件が設けられていて、現在の宗派と異なっている場合は、求められれば改宗が必要です。
お盆等の繁忙期はお寺への依頼が困難に
お墓の引っ越しにも避けたほうがいいタイミングがあり、お盆などの繁忙期にはお寺への依頼が難しくなる可能性が高くなります。基本的に、いつ改葬を行うかは自分の都合で自由に選べます。決められたタイミングなどはありません。ただ、年末年始やお彼岸、お盆などの繁忙期は避けたほうがよいでしょう。
お墓参りや法要が増え、お寺にとって忙しい時期にあたるため、遺骨を取り出す際に閉眼供養などの依頼がしづらく、頼めたとしても希望の日時に合わせてもらうのが難しくなります。もし改葬を考えているタイミングがこうした時期と被る場合は、予定をずらしたほうが無難といえるでしょう。
古い墓所の墓石は新しい墓所に移動できる可能性も
お墓を改葬する際、条件があえば墓石そのものを移転できる可能性があります。お墓の引っ越しとは言うものの、改葬の際は、古いお墓を撤去し、引っ越し先には新しいお墓を建てるのが一般的です。
しかし、絶対に新規でなければならないわけではなく、改葬先の建墓条件さえクリアしていれば、墓石ごとの引っ越しも可能です。ただ、墓石の持ち込みを受け入れている墓地は少ないため、うまく条件に合うところが見つかるとは限りません。
墓石の移転を受け付けているのは公営墓地がほとんどですが、それ以外でも問い合わせをすれば可能な場合があります。墓石ごとの引っ越しを希望される方は、一度確認してください。
改葬(お墓の引越し)を正しく理解し、適切に故人を弔いましょう
お墓の引っ越しには、単に遺骨を移すだけでなく、必要書類の発行など正しい改葬手続きが求められます。少子高齢化や都市化が進む現代の日本では、今後、遠方にあってお墓参りや手入れが難しいといった理由から改葬を検討される人も増えていくでしょう。
適切な改葬を行い、きちんと故人を弔うためにも、お墓の引っ越しを考えている人は、ぜひこの記事を参考にして手続きを行ってください。
フクイシでは、ほかにもお墓に関する情報や基礎的な知識をわかりやすく紹介しています。
お墓の種類や選び方、購入や墓じまいする際の費用など、お墓について疑問をお持ちの人は、ぜひ一度のぞいてください。